「後悔、しているの?」

 私をこの船に乗せたことを後悔なんてしないで。いつもみんなに見せている、あの自信たっぷりの笑顔を見せてよ。

 不安げな顔で自分を見つめているフィスに気付いたのか、レイズは優しい笑みを浮かべた。

「いや。俺は後悔などしたことがない。自分が選んだ道をひたすらに信じる。後悔しそうになったときには、そうならないよう努力する。未来は自分で切り開く主義だからな」

 その言葉に、心に大きく膨れ上がったはずの孤独感や不安が一気に消えていく。

「お前に新しい世界を見せてやりたいと思った気持ちに嘘はない」

 きっぱりと言い放ったレイズに、フィスはようやく笑顔を見せた。

「だんだんと本物の笑顔が戻ってきたな」

「本物の笑顔?」

「始めて会ったとき、泣いていただろう。ディックバードに乗ってからもまだみんなに馴染めずにいた。でもディックバード(ここ)でお前は本当の自分を取り戻すんだ。今は、そのための時間だ」

 包帯の巻かれた手でクシャっと優しくフィスの頭を撫でる。

 どうしてこんなにも…。

 立ち上がり、目の前に悠々と広がる海を見つめるレイズ。

 どうして、この人はこんなにも優しいのだろう―――。

 眩しい光の中に立ち尽くすその人の背中を、目を細めて凝視する。

 お父様の気持ちを考えると辛い気持ちになるけれど、でも私だって、あなたの手を受け入れたことを後悔なんてしていない。あなたの持っている自信が、私の中にあるほんの少しの勇気を大きくさせる気がする。新しい世界の中に、今私はいるのね。

「フィス、もうすぐ…今日の夕方には港に着く。着いたらすぐに行く場所があるから一緒に来い」

「はい!」

 振り向いてそう言ったレイズに、フィスは笑顔で返事をした。