船員たちが集まっているデッキを通りがかったウォレンは、その視線の中にフィスの姿を捉えた。

 昨日の夜はあんなにも泣きそうな顔をしていたのに、今はみんなの輪の中で笑顔を大放出だ。まったく、女って奴はこれだから面倒だ。

 ふぅっと小さくため息をつき歩き出そうとしたウォレンを引き止める声が聞こえる。

「ウォレン様! フィス様が怪我の手当てをしてくださってますよ。ウォレン様も手当てしてもらった方がいいのでは?」

「俺は大丈…」

「ちょうど今一人終わりますから、お先にどうぞ!」

 答えようとした声をそんな言葉でかき消され視線を向けると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。

「やっと見つけたわ。私にできること」

 それは自分の居場所を見つけた者の持つ自信だった。

 どのくらい前だっただろう。自分もディックバード(ここ)で居場所を見つけられないでいた頃があった。昨日までのフィスの姿と、その頃の自分の姿が重なり合って見えたのが、ほんの少し彼女にイライラした理由だったのだろうか。

 ゆっくりとウォレンの足が動くと同時に、輪の中心にいる彼女の元へ続く道が開けられていく。

「手当てなど、本当は必要ないんだが」

「あら、そう。でも見る限りあなたとレイズはここにいるみんなよりひどい怪我をしてるわ。さ、手を出して」

 ウォレンがデッキに腰を下ろし、フィスに手を差し出す。太陽の光は変わらず頭上に降り注ぎ、穏やかな、しかししっかりとした追い風がメインセイルを揺らしていた。そんな時間はゆっくりと過ぎていく。