「嵐が過ぎて次の太陽が見えたとき、何故かわからないけど『俺が勝った』って思う。何よりも大きな自然の力に翻弄されて、それでも俺は自分を見失ってないって心から思える」

 あまりにも揺らぎない心。その瞳。

 この瞳に引き寄せられた理由がわかったような気がした。

「でも、死と背中合わせよ?」

「だけど、俺は今確かにここに生きてる。でももし、ディックバードで死を迎えることになったとしたら、それはそれで本望なんだろうな」

「そんな…」

「まあでも大体、死を迎えたときにどう思うかなんてわからない。死んだことなんてないんだからな。今のところそういう予定もなしだ。俺は勝ち続ける。絶対に」

 どこからその自信がわいてくるのかはわからないが、とにかく有無を言わせない自信がレイズから滲み出ていた。それ以上何かを言うこともできず、フィスはガラス越しにデッキを覗く。そこでは眠りから目覚めた船員たちがゆっくりと動き始めていた。

「血…!」

 ふと視線を向けたとき、レイズの服についている真っ赤な染みが目に入り、フィスは声を上げた。よく見るとロープを握っていた手のひら、そして船員を助けたときに船体に叩きつけられたと予想される右肘は、擦り剥けた…というよりはすでにそれを超えた状態だった。

「このくらい慣れている」

「でも手当てしないと」

 フィスはレイズの傷の手当てをする準備のためブリッジを後にした。