レイズが指揮をとるこのディックバード号は、長い航海を繰り返し各国の輸入や輸出の荷物を流通させる役目を果たしている。フィスがこのディックバード号に乗り込んでからすでに約三週間の時間が過ぎていた。

 感慨深げに頂を見つめるフィスの姿を背に、一度も振り向くことなくキャビンへ戻ろうとしていたレイズの姿をもう一人の男が見つめていた。

「正体を明かせばいいものを」

 その男が呟いた言葉にレイズは足を止め顔を上げた。いつものごとく無表情で腕を組んだまま壁に寄りかかる男と目が合う。

「言ったところでどうにかなるものでもないだろう」

「そうか?」

「ウォレン、お前まで俺に面倒なことを言わせたり考えさせたりするのはやめてくれ」

 胸にしまっていたタバコを取り出し火をつけると、ウォレンは深く吸った煙を空に吐き出した。

「お姫様は一週間後、自分の気持ちに気付いて泣くだろうな?」

「どうかな」

 フッと軽く笑いながらレイズは答える。ドアを開け、いつにもまして乱暴な音をたててそれを閉める。遠ざかっていく足音にウォレンもまた軽い笑みを浮かべた。

「相変わらず、意地っ張りな奴だ」