「船長、ハッチが開きそうだ!!」

 一際大きなウェイ・オンの叫び声が聞こえた。デッキの中央に位置する大きな開口部に彼の姿はあった。

「ウォレン!!」

 レイズがその名を叫ぶと反対側のデッキでレイズと同様にマストを支えていたウォレンがウェイ・オンに走り寄る。レイズとウォレンがハッチに辿り着いたのはほぼ同時だった。

「ロープが足りない!」

「すぐ戻ります!!」

 ウェイ・オンはそう言うとホールに向かって走り出した。レイズとウォレンは二人がかりでハッチを押さえるロープを結びなおす。

 そしてウェイ・オンはホールに向かい走りながら、雨と風に遮られる視界の隅にフィスの姿を捉えた。

「お嬢さん、こんなところで何やってるんだ!! ここは危ない。中に戻ってください!」

「でも…」

 ホールの中に置いてあったロープを素早く手に取ると、ウェイ・オンはもう一度言った。

「中に戻ってください。早く!!」

 フィスの身体を無理やりホールの中に戻すと、扉を閉め再びデッキを走り出す。いつもの少しはにかんだ優しい表情はそこにはなかった。

 新しいロープでハッチには二重の結び目が作られる。そしてウェイ・オンがレイズの耳元で何かを伝えた。その言葉に反射的に顔を上げたレイズの瞳には、ホールの中で不安げな表情を浮かべているフィスの姿が映った。

 瞬間。

「う…わぁぁ!!」

 突然強い波がデッキを襲う。はっとしたレイズが船員たちに向き直る。船員たちは自分がロープに捕まることに必死だ。そして波にさらわれそうになった一人の男の姿が見えた瞬間、レイズは迷いもせずその中に飛び込んだ。

 姿が、視界から消えた。

「レイズ!!」

 フィスは思わずホールから飛び出していた。叩きつけるような雨と風で何も見えない。

 海に落ちた…?!

 この状況で海に投げ出されたとすれば、結果は目に見えているも同然だ。

「レイズ…!」

 必死に名前を呼んだ。しかし答えはない。

 デッキを襲った波が引いていき、フィスはその姿を探す。

 どこにいるの…?