「それは…」

「これからどのようなお方と出会うかは今はわからないのでは? もしかするとそのお相手はレイズ船長かもしれませんよ?」

 少し冗談交じりのそんな言葉。

「とにかく! あなた方にはわからないいろいろな事情で私にそのようなことは一切ありません」

 冗談を冗談と受け止めずに声を荒げたフィスにジョン・マークは戸惑った様子だ。その光景に他の船員たちもそれぞれに顔を見合わせている。

「おい、あんまりお姫様をいじめるなよ」

 そんな声と同時にレイズが姿を現した。隣にはやはり無愛想な顔をしたウォレンが立っている。

「船長! ウォレン様!」

 皆の表情が一気に明るくなる。それを見ると改めてレイズは船員たちに大きな影響力を持っているのだということに気付かされる。

「お姫様はまだまだ子供だからな。『恋』の意味すら知らないのかもしれぬぞ。なぁ、ウォレン」

 レイズの言葉に船員たちは声を上げて笑い出した。ウォレンは鼻で笑い、横目でフィスを一瞥した。

 レイズの奴、好き勝手なことばかり言って! こんな男に恋などするものですか!!

「ではレイズ様。レイズ様がフィス様に恋をすることは?」

 質問の矛先がレイズに向けられる。レイズは質問には答えずに言う。

「『様』はいらない。レイズか、船長だ。前からそう言っているだろう、ウェイ・オン」