「もう、何もいらないくらい、幸せってことです」

リクは、涙の余韻がない清汰の表情に、

自分の言葉がちゃんと届いたのだと安心しました。

それから、清汰の両手をそっと握り

「清汰さんは、ちゃんと誰かを大切に出来る方です」


清汰を強く見つめたあと、にっこりと笑って見せました。


清汰は「ありがとう」と言って、リクの頭を撫でました。

リクは全身に伝わる清汰の優しい温度を

どこかで知っている気がしました。

きっとそれは、失った記憶の中に眠っているのかもしれない。

もう思い出すことはないかもしれないけど

リクは、それでいいと思いました。