「すみませんが、傘持つの手伝ってくれないかしら。荷物がいっぱいで持てなくって」



視線を動かすと私を探るような目で見る妖艶な女性がたたずんでいた。



「…私、ですか」


駅のターミナルにはタクシーだってあるのに、と疑問に思っていたけど、



「もちろんお礼もするから、ね。頼まれてくれません」



お人好しでダメってはっきり言えない私はそれを引き受けていた。



このことを後で聞いたら、ママはこの時から私を店で雇うことを決めて声をかけたらしい。



私はホステスなんかしたいとは思ってもなかったけど



いつも流されて生きている、から。



私はママについていこうと思ったんだ。



そして私は猫になった。



お店ではお客さんの機嫌を取り、笑顔を振りまく日々。



ママのお店は落ち着いていて、変なお客さんも少ないから働きやすい。



古めかしい町のスナックって感じで、きらびやかじゃない所がすぐ気に入った。



他のボーイの人やお姉さんたちとも仲良くさせてもらってる。



ママはお礼だといって、就職先と近くのアパートまで紹介してくれたけど



この私のどこが気に入ったのかは謎。



「あっ!」



────ガッシャーン



ボーッとしていたせいで、掃除で使っていた箒を倒してしまった。



「ヒナ。ちょっと大丈夫」



「すみませーん!大丈夫です」



「そう、ちょっと来てちょうだい」



ママが店のフロアの方から私を呼んでいた。



「はい」



そう返事をして、私はまた箒を置いた。