果たして、それから、30分がきっかりと経った15:30に、砂場心理クリニックのドアがノックされた。

「どうぞ。」と答えた冴子の声が届く前に、ドアのノブがガチャリと回され、一人の女性が入ってきた。

年齢は30歳前後で、全身を派手なブランド物のスーツに包み、アップにまとめられた髪から、先の尖がったヒールの先端まで、壱分の隙も無い完璧なビジネススタイルだった。

「初めまして。私が先ほど、電話でアポを取りました、相談者の峰山レイコです。 よろし...。」

そこまで言いかけて、レイコは目を見張った。

目の前の応接セットのソファーの長いすには、無精ひげを生やした、40歳過ぎの男が高いびきで寝ているのだ。

その奥で、アシスタントと思しき、20歳代の女性が申し訳なさそうに、こっちを見ている。

「すみません。ちょっと、砂場先生はお疲れのようで。いま、起こします。」

そう言って、冴子は砂場の元に駆け寄り、肩を揺すって起こした。

「先生、クライアントさんがお見えです。起きてください。先生、起きてください、」

先生と呼ばれる男が、この心理クリニックの主であることは、着ている白衣からも伺い知ることが出来た。

と、同時にレイコは、その砂場と名乗る男を必死で起こそうとする冴子についても鋭く観察し、自分の中で値踏みをしていた。