すると連中は催眠にかかった。
変成意識状態に入る。
奴らは勝手に自分の妄想をあたかも現実のように見るのだ。

しばし連中が夢想をさまようのを見てから、
はっきりした声で目覚めの経文を唱える。

連中がわれにかえる。

「おいらは今、ビーナスを抱いた」

「死後の世界が見えた」

「神の呼び声をきいた」

「腹いっぱい、黒蜥蜴を食ったぜ」

「金の延べ棒が積まれてた」

口々にてんでのことを言うが、とにかく驚いている。

背後から、両の手を高らかに打ち鳴らす音が響いてきた。
振り返ると、醜い小人が、こちらに向かってくる。

この男が支配人のようだ。

「すばらしい術だ。どこでこの術を?」

「俺は自己流でね。」

「はあ。見事なもんだ。興行一回に付き10万でどうだ?」

「10万ねえ・・・」

「では12では」

「俺が小屋に入れば、今の数倍はかせがせてやるんだがな、
少しかんがえさせてもらおうか?ほかもあたりたいんでね。」

「わかった。20だそう。」


見世物小屋は大盛況になった。
俺は、つねに独立や、他の小屋から声がかかっていることをにおわせて
報酬を吊り上げていった。

俺もとんだ悪党になったものだ。

はじめは小屋に寝泊りしていたが、自分で部屋を借りた。
そのとき、俺は生まれて初めての感情を味わう。

淋しい。

そういえば、俺は一人で生活したことがなかった。
あえていうなら山を出てすぐ一人で旅をしていた期間くらいのものだった。

そのあとすぐにガレー船に乗り、qと出会った。

まず、あの女のことを思い出した。
会いたい。

それからqのことを思い出した。
あのころ、いやでいやで仕方なかった。
でもいつも俺のそばにいたq。

俺は娼婦を買った。
どんな高級な娼婦でもあの女を超える者は無かった。
ことが済むと娼婦をさっさと帰した。
ただむなしかった。

それから仕事にあけくれた。

だが部屋に帰ると、胸が締め付けられた。
淋しい。
孤独に耐えられない。

じっと、ベッドに座り、胸をおさえた。
苦しい。
苦しい。

「くるしい」

気づくと言葉に出していた。

「何がそんなに苦しいの?」

何者かが応えた。とびあがるほど驚き、
窓をみるとqが顔を出していた。