ある日、目を覚ましたqが言った。

「夢をみたよ。」

「どんな夢?」

「真ん中に、光があるんだ。
その周りに、取り囲むように、八つの光が見えた。
花びらみたいに。それからさらにそれを囲むようにたくさんの丸い光があって。
それが無限にひろがっていくんだ。」

「それは凄い夢だな」

もう、qに死への恐怖は見受けられなかった。
俺も、怖くなくなっていた。
寂しいという気持ちはあったが、
qという存在が無くなるという感覚ではなかった。


まもなくして、qの意識が混濁し始めた。
当然、便所に行くこともできず、むつきを当てた。

そんな状態でも、俺はqに物語を続けた。

「q、お前は俺の心だよ。
お前が暴れれば、俺も暴れた。
お前が静まれば、俺も静まった。

俺の心が、お前になって、俺の前に現れてくれたんだな。
ありがとう。」

反応はなかった。
でもqにはきこえているはずだ。





俺はいつもどおりqを抱いて眠っていたが、
目覚めるとqは死んでいた。




おやじさんに荷車を借りてqの骸を運んだ。
河辺で小船にqを乗せた。

おかみさんが花を持ってきてくれた。

「q、よかったな」

顔のまわりを花で飾った。

「これからは、俺と一緒に生きるんだ。」

qの顔に自分の顔をつけてそう言った。
その時だった。

ほんの一刹那、この世界の、すべての歯車が、
かちりと合わさったのが解った。


布を被せ、かつてqだった物体を乗せた小船を
河の流れに押し出した。

船は音も立てず、すうっと岸辺を離れていった。