夜になると、qの苦しさを紛らわすために、物語をするようになった。
はじめに語ったのは、シッダッダの物語だった。
シッダッダが王子として生まれ、真理を求めて旅にでる物語。
そのまま話してもqは飽きるので、勝手に、山あり谷ありの大冒険の物語にした。
qはとても喜んだ。

「サダクロー、幻術を使ってるの?サダクローが話してると、ほんとに見えてくるんだ。
シッダッダが、菩提樹の木が、悪魔が。声も聞こえてくるんだ。」

「お前に幻術は使わないよ。見えるんなら、それはお前の想像力だよ。」

「想像力?俺にそんなものがあるの?」

「あるんだろうよ。」

qはつぎつぎに物語をせがんだ。
時には話しているうちに朝になってしまうこともあった。

いろいろ話した。
兄者が隠し持っていた漫画本の物語もした。
老師さまからきいた昔話もした。
山で学んでいた経典の内容も話した。

「すごいね、サダクローは、いろんな物語知ってるね。」

自分でも改めて気づいた。
俺はこんなにたくさんの知識を持ってるんだ。

「俺は今はうれしいよ」

qが言った。

「なにが?」

「サダクローは前は俺のこときらってたじゃないか。
一度なんか、ほんとに逃げちゃったし。
でも、今は一日中、そばにいてくれる。
おもしろいお話もいっぱいきかせてくれて、一緒にねむって。」

「そうだな。」

いまや、qは無くてはならない存在だった。
俺はqを愛していた。