「お二人は新婚さんですか?」
船に乗り込んだ私たちに、スタッフのお姉さんがそんなことを尋ねてきた。
私は否定しようとしたけれど、サトシが
「ええ、まぁ」
なんて肯定する。
「お似合いですね」
お姉さんが笑って去っていったあと、どうして肯定したのかと驚く私に
「いいじゃないか。将来の予行練習ってことで、この船に乗っている間は新婚ごっこをしようよ」
サトシが無邪気に笑うものだから。
だから――
サトシが、私がおぼれていることに気づいてくれなかったことも。
サトシが、私が怖がっているのにダイビングを決行しようとしていることも。
全部、全部、一瞬のうちに「まぁ、いいか」と許す気持ちになってしまう。
私はサトシの笑顔に弱い。
このうえなく弱い。
船のデッキから水平線を見つめるサトシの髪が、潮風に揺れて。
私の心を、優しくくすぐった。


