「俺が自発的に君に触れたことは一度もないし、連絡を取ろうとしたこともない。待ち合わせをしたのは、ピクニックに行ったときと、最後にあのイタリアンレストランに行ったときだけ。それ以外は、偶然道で会っただけだったよね」
「……そうだけど……どうしていきなりそんなこと言うんですか」
「ごめん。君を傷つけたくなくて拒絶できなかったけど、拒絶しないことは優しさなんかじゃなかったよな。結果的に、こうして余計に君を傷つけることになってしまって、本当に申し訳ないと思ってる」
「だから、どうしてそんなこと言うんですか!」
彼女が声を荒げた。
「君の要求を受け入れることで、傷つけてしまう人がいたから。他の誰を傷つけるより、彼女のことを傷つけたくないんだ。本当に、今さらなんだけど」
そんな彼の言葉に、彼女がさめざめと泣き出した。
そして、彼から聞いていた、彼女おきまりの台詞が飛び出した。
「こんな風に拒絶されてしまう女に、生きている意味がありますか」
それから彼女は、こんなことを言われるのは自分が価値のない人間だからで、こんな自分はまた引きこもってしまえばいいのだと吐き捨てた。
それらもまた、彼から聞いていたとおりの言葉だった。
「そんなこと言わないでくれ」と彼が必死になだめるも、彼女の悲観的な主張は止まらない。
なるほど、こういう状況になって、彼は彼女を拒絶できなくなることを繰り返してきたわけか。
私は妙に冷静な気持ちで、二人の修羅場に耳を傾けていた。


