約束の時刻の二十分前に店に着いた。
幸い前後した二席が空いていたため、手前の席にドア方面に向いて翔さんが座り、私は奥の席にドアに背を向ける形で座った。
翔さんとは、背中合わせになる恰好だ。
念のため、帽子をかぶって髪も隠す。
まずは、身を隠して二人の話をこっそり聞く作戦だ。
いつ来るかと待っている時間はとても長く感じ、緊張のためか、やたら喉が渇いた。
飲みきってしまったお水をウェイトレスが注ぎに来てくれたとき、ドアの開く音が聞こえてきた。
腕時計に目を落とし、それが約束の時刻の五分前だと確認したとき――
「おまたせしました!」
翔さんの前に、誰かが座る気配がした。
――来た。
「お久しぶりです。一時帰国、いつまでなんですか」
これから始まる話を予想もしていないのか、やけに嬉しそうな小倉さん。
私と話したときとは、明らかにトーンの違う声。
「三日だけ。またすぐドイツに戻る予定なんだ」
「そんな短期間のために帰ってきたんですか? 何しに? えっ、私に会うために?」
何やら勘違いをしているらしき小倉さんが、さらに嬉しそうな声を上げた。
「違うよ。妻に会うために」
「……」
そこで、無言が訪れる。


