うつむいた私の頭を、翔さんが「ごめんな」と数回なでた。

「友里には、かっこ悪いところを見せたくなかったんだ」

小倉さんのことを話すということは、彼女のことを拒みきれない理由も話すということで、それはすなわち、過去に自分が親友を見捨てたことを話すということになる。

自分がそんな人間だと友里には知られたくなかった、と翔さんが瞳を曇らせた。

「俺、友里の前では、いつも完璧なヒーローでいたかったからさ」

彼が、悲しそうに笑った。


先週、港の見える丘公園で、サトシのことが一瞬ヒーローに見えたけど。

そうだ、私のヒーローは、この人だった。

今回の件が起こるまで、私にとって、ずっと完璧なヒーローだった。

でも……


「どんなヒーローだって、二十四時間ヒーローのままでいるわけじゃないよ」

相手の良いところだけを見て歩んでいく夫婦なんて、いるわけがない。

「たまには、マントをはずしていいんだよ」

そう、むしろ私の前では、ヒーローのマントをはずして、休んでくれていい。

「そうだな、ごめん。これからはそうするよ」

重ねた手から伝わるぬくもりは、未来を照らす道しるべ。

「もう隠し事は絶対になしにしようね」

「約束するよ」