電話を切ると、私はキッチンに立ち、紅茶を淹れなおした。

今度は、翔さんの好きな紅茶を。

お盆に乗せたそれを手に、庭へと出る。

秋晴れの空に向かって気持ち良さそうに背を伸ばす花たちにちらりと目をやってから、テーブルに向かった。

私に気づいた翔さんが、手にしていた煙草を灰皿でもみ消す。

「ずいぶん長い電話だったね」

ティーカップをお盆から下して隣の椅子に座ると

「……話してくれれば良かったのに」

私はぽつりと呟いた。

「え?」

「親友が引きこもりになっちゃった話」

「……あいつ、そんな話をしてたのか」

結局のところ、私は、サトシと付き合っていたころから何も進歩してないのではないだろうか。

サトシが、院内感染の事件で悩んでいたことを私に話してくれなかったように。

翔さんにそんな過去があり、だから引きこもりの小倉さんをほっておけなかったということを、話してもらえなかった。

サトシが悩んでいたことに気づけなかったように。

翔さんが小倉さんにそんな風に迫られていたことを、何も気づけなかった。


サトシは、あんなにも成長したのに。

私は何も変わっていないのではないだろうか。