隣の部屋からチェス盤を持ってくると、カーペットの上で駒を並べはじめた。

「ねぇ、チェスしようよ」

「なぁ、チェスしようか」

どちらから誘ったことの方が多かっただろう。

同じくらいだろうか。

強くなったと褒められたくて、私がチェス上達法の本を何冊も読んだことには、きっと彼は気づいていないに違いない。


並べおわったチェス盤を長い間見つめていたら、急に頭が痛くなってきた。

そういえばかつて、泣くと頭痛がするのは何故かとサトシに尋ね、泣くことと頭痛の因果関係について医学的な説明をしてもらったことがあったなと思いだしたとき、たった今自分が泣いていることに気がついた。


並んだ駒を手でぐちゃぐちゃに壊し払いのけると、私はチェス盤に突っ伏した。

その衝撃でバラバラに転がっていった駒は、いったいどこまで行くのだろう。