結婚後も仕事を辞めなかった私の毎日はそれなりに忙しかったけれど、基本的にそれまでの日々と特に変わることはなかった。

家事はそれまでどおりすべて私がやっていたけれど、何も不満はなかったし。

夫となっても、彼は結婚前と変わらずに優しかったし。

休日の午後に彼がシェリーの散歩に行くのもそれまでと変らず、その間に私が掃除や買い物を済ませ、深夜、ワイングラスを傾けながら二人でチェスを楽しむのも、それまで通りだった。

変わったことと言えば、そのワイングラスが、サトシとカナさんが贈ってくれたバカラになったことくらい。

それからもう一つ……

「友里、だいぶ強くなったなぁ」

私のチェスの腕前が、そこそこ上達したくらい。


リビングの壁では、春夏秋冬の私たちが笑っていた。

もちろん、サトシのために買ったものとは別のフォトフレームの中で。