それは、桜の木が、さくら色から緑色へと衣替えを始めたころのこと。

私たちはピクニックと称し、海の見える公園でビニールシートを広げ、お弁当を食べていた。


私の手作りのお弁当を、美味しいと言いながら食べてくれる翔さん。

途中、手が滑ったのか、翔さんのつまんだプチトマトが、ころんとレジャーシートの上に転がった。

「あ、ごめん!」

翔さんは慌てて拾いあげると

「どこかで洗ってこようかな」

と周囲を見渡した。

「いい、いい。ここに入れておいて」

私がビニール袋を差し出すと、翔さんは

「せっかく友里ちゃんが入れてくれたトマトなのに。ごめん」

肩を落として謝ってきた。


たった一つプチトマトを落としただけで、そこまで申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのに。

そういえば、サトシは私の作ったカツサンドをカモにあげちゃってたっけね。


ふいにそんなことを思い出し、ふっと笑みがこぼれた。

サトシのことを思い出しても、もはや胸が痛むことはない。

サトシのことは――

ただただ、ひたすらに懐かしい記憶だ。