ママのバレンタイン

 私は、胸に長いことつかえていた、大きな石を取り除けたような晴れ晴れとした気分になっていた。

 私達は暖かいココアをもう一度注文して、ふーふーいいながら、ココアをすすった。

 言葉を越えた暖かいものが、ココアの甘さと一緒になってからだ全体にしみこんでいた。

「あのね……」
 ママが小さく呟いた。

 私は天使のような穏やかな気持ちになっていた。
「ヤスオちゃんが、『ちゃんと籍いれましょう』って言うんだけれど、これって、プロポーズかな?」
「……!」

 私は、耳を疑った。

「香奈は、パニックに弱いのねえ……固まってるわよ」
 ママが悪戯っぽく、でも、照れくさそうに笑う。私はしばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開けた。

「ヤスオちゃんとまだ籍入れてなかったの?」

「えっ?」

 今度はママが固まった。それを見て、また私も固まった。

「だ、だって、てっきり、とっくに、しっかり籍入れてると思ってた……」
「そ、そんな……私達は香奈の気持ちがちゃんとするまで……」
 ママは半べそになっていた。
「本当に、ママって手が掛かるなあ……それにつき合うヤスオちゃんもヤスオちゃんなんだから……本心、認めてなかったら、とっくにママの家に遊びに行ってヤスオちゃん追い出してる、そうじゃない?」
 
 私はにやりと笑うと、ココアを啜りながら、テーブルの上に置いたチョコレートを見つめながら、明日のバレンタインデーに思いを馳せていた。

 私の方からも、好きだってちゃんと言えますように……
 安宅君から、告白された自分を大事に思えますように……

                        

                  おしまい