「あのさ…さくらに"よかったな"って伝えてくれるか?」

田渕は少し申し訳なさそうな顔でそう頼んできた。

ー ズキッ

あたしの胸に鈍い痛みが走る。

…"さくら"

感じたことのない胸の痛みに顔を歪めた。

「…わかった伝えとく…ってかさ、杉杏菜ってフルネームやめない?恥ずかしいだけど」

違う!こんなことをいうつもりないのに…
なんか勝手に…
恥ずかしい!!
あたしすごい惨めじゃん。
さくらちゃんをうらやましいとか思ってしまった…。

「んぁ?……まぁそうだな。"杉"だとさくらと被るし…"杏菜"?」

え…
杏…菜?

まさか呼び捨てで"杏菜"と呼んでくれるとは思っていなったあたしはぼっと一気に血が頭に上り、顔を真っ赤に染めた。
動揺を隠せず目を泳がせながら下を向くと田渕が不思議そうにあたしの顔のまえで手をヒラヒラ振った。

「おーーい?まだ文句あるのかー?」

「それでいい!」

顔をバッと上げて田渕の顔を見るとなんだか恥ずかしいような、いたたまれない気持ちになって"ゔー"と複雑な表情した。

「じゃ、じゃっ!」

噛みながらも田渕にバイバイをして素早く立ち去った。

「帰ろ徳美!」

その勢いのまま階段近くで待っていた徳美を腕をもってすごい早さで階段を下っていった。