あたしが降りる"桜宮駅"まで二人は互いに無言のままで電車に揺られていった。
桜宮駅で降りた後もどちらからも喋ることなく田渕くんはあたしより2.3歩先を歩いてあたしの家に向かった。

「懐かしいな…」

沈黙の中先に口を開いたのは田渕くんの方からだった。

「え?懐かしい?」

「いや、こっちの話」

意味深な言葉を発した田渕くんを不思議に思って聞いたが答えてくれない。
そのまままた沈黙になってしまった。

なんか…
田渕くんって不思議なオーラあるよね…
"これ以上入ってくんな!"って言われてる感。
線引かれてるっていうか…

そんなことを思いながら田渕くんの背中を見つめているとしばらくして先を歩いていた田渕くんが振り返った。

「…着いたけど」

気付けばいつのまにか家に着いていた。

えっ!?なんで?
なんであたしより先にあたしん家に着いちゃってるの!?
田渕くんとは今まで関わりなかったし、さっき初めて話した程度であたしの家を知ってるわけないのに…
あれ?そういえば
さっきから確か…
降りる駅知ってたり…
"懐かしい"って言ったり…

自分より先に自分の家に着いた田渕くんを驚き不審な目で見つめた。

「あぁ…そりゃびっくりするわなぁ…今まで関わりなかったヤツが自分より先に自分ん家着いたりしてんだから…」

田渕くんはあたしが思っていることを見透かしたようにそう言った。

「なんで…?」

「いや…あんたの姉ちゃん.杉さくらと知り合いだから俺」

「さくらちゃんと!?」

杉さくらとは杏菜の5つ上のお姉ちゃんだ。
あたしはさくらの名前を聞いて目を丸くする。

「まぁちょっと訳ありってこと!じゃあ俺帰るわ」

田渕くんはそう言い残してあたしに背を向けてまた駅の方へ向かっていく。

「あ…お礼!今日は助けてくれて送ってくれて本当にありがとー!」

少し遠くにいってしまった田渕くんの背中に向かってそう叫ぶと一瞬足を止めたが手をひらひら振ってまた歩いていってしまった。

「…いったいあの人何だったんだ?」

小さくなる田渕くんに手を振りながら首を少しひねった。