「ちゃんとご挨拶しなくていいの?」


「志鶴を控え所に置いたら戻ってするよ。みんな分かっているから大丈夫」


少し離れた所で、賑やかな笑い声がドッとわいた。

圭吾さんとそんなに年の変わらないような人達が、集まっておしゃべりをしている。

本当なら、圭吾さんだってあの中で気楽に笑っていたのかもしれない。


圭吾さんの大変さを初めて知った気がした。


「志鶴? どうした?」


「あ、ううん。楽しそうだなって思って」


「そうだね」


圭吾さんはわたしの視線の先を見て頷いた。




もう少し境内の奥まで行くと、イベント用の大きな仮設テントが三張りあった。

『龍師控所』と書かれた看板が一番手前のテント前に立っている。


受付で名前を書いて中に入ると、誰かが『圭吾』と呼ぶ。


圭吾さんは振り返って声をかけた人を見て――

わたしの手を握る圭吾さんの手に力が入った。


「やあ優月、久しぶり」