圭吾さんはピタリと動きを止めて、わたしを見返した。


「そこまでの力はないよ。ただ――いや、やはり中で話そう。長い話だから」


そう言うと圭吾さんは螺旋階段を上り、わたしは素直に後ろからついて行った。


圭吾さんの部屋に戻り、さっきまでわたしが寝ていたソファに座らされた。

圭吾さんは温かいタオルでわたしの足を拭いて体を毛布でくるむと、わたしの前の床にひざまづいて座った。


「初めて会った日の事、覚えてる?」


こっくりとうなづく。


「あの時、志鶴はよっぽど驚いたんだろうね。普通なら人の心にあるはずの防壁が全部吹っ飛んでしまっていて、君に触れた途端に君の心が全部僕の中に流れ込んで来たんだ」


「全部?」


「全部だ。君の恐れも、悲しみも、希望も。

君の心は美しかったよ。どれもこれも水晶みたいにキラキラしてた。

そして、純金のような色した温かい愛情があって、君のご両親がいて、友達がいて、うちの母がいて、彩名がいた。

彩名は叔母さんに――君のお母さんに似てるんだね。

もちろん僕はいなかった。

自分勝手で、預かる従妹の事などすっかり忘れていた男だもの当たり前だ。

でも、僕は君の心の中に僕の事も入れてほしかったんだ」