年が明けて2013年になり、環は1月6日から再び聖ブルージョークス女学院に出勤し寮に戻った。正月休みとは言え、ゆっくりできたのは元旦ぐらいで、来月に控えた公立学校の採用試験に備えた勉強に追われてしまったが。
 朝校舎棟に入ると去年のクリスマスツリーがまだそのまま置いてあって、環は少し呆れた。まだ冬休みなので生徒の姿はなく、教職員の朝礼が終わったところで校長が意外な事を言った。
「では例年通り、クリスマスの飾りつけの片づけを行いますので、みなさん、よろしくお願いします」
 環はあの若いシスターと二人で壁の飾りを取り外しながら、頭をひねるばかりだった。なんでまた、クリスマスの飾りを年越しさせて今頃片づけなんだろう?思い切ってシスターに尋ねると、シスターも年末の事を思い出したらしく、にっこり笑いながら答えてくれた。
「今日がエピファニーだからですよ」
「あはは、すみません。また知らない事が……それは何ですか?」
「本来は1月6日なのですが、カトリックの多くの宗派では1月2日から8日の間の日曜日という事にしています。今年は6日が日曜日ですから、ちょうどぴったりですね」
「はあ。それで何のお祝いの日なんですか?」
 するとシスターは何故か一瞬困った表情になったが、すぐに言葉を続けた。
「実はエピファニーが何の日かというのは、キリスト教の中でも少し混乱していまして。古くはイエス様が洗礼を受けられた日という事になっていて、今でも東方教会はそういう記念日として祝っています。でも、何故か、カトリックなどの西方教会では、主の公現の日という事に変わってしまって」
「は?主の……コウゲン?」
「まあ、イエス様が初めて人間の前に姿を現わされたというような意味で。私たちが属する宗派の教会では、東方の三賢者がまだ赤ん坊のイエス様を訪ねて来た日と解釈しています」
「東方の三賢者って、ええと確か、バルタザール、メルキオール、カスパー……でしたっけ?」
「まあ!さすが英語の先生。よくご存じで」
「あ、いえ、これ、とあるアニメの中のスーパーコンピューターの名前だったんで、覚えてただけなんです。じゃあ、エピファニーって、その記念日なんですか」