私立聖ブルージョークス女学院では生徒たちが主体になって、10月31日の午後は盛大にハロウィンのお祭りをする。魔女に扮したグループ、お化けの仮装をしたグループが校内のあちこちを所せましと「トリック・オア・トリート?」と叫びながら楽しげにはしゃぎ回っていた。
 ふと環はシスターたちが、ポツンと離れた場所に固まっているのに気づいた。年齢がら参加しづらいのだろうか、と気になった環は彼女たちの側へ行った。
「あの、シスターのみなさんも参加なさっては?楽しそうですよ」
 だが、シスターたちは全員困った様な微笑を顔に浮かべて首を横に振った。
「あの、神津先生、お気持ちはありがたいのですが。わたくしたちシスターはハロウィンには参加できませんの。あれはキリスト教の行事ではありませんから」
「え?ハロウィンって、教会のお祭りじゃなかったんですか?」
「はい。ハロウィンはもともとスコットランドあたりの民間のお祭りがアメリカに伝わって今の様な形になったと言われています。東方教会、西方教会、カトリック、プロテスタント、全てのキリスト教の宗派で、正式な教会の行事とは認めておりませんわ」
「え?そうだったんですか。あら、でも、じゃあ、校内でやらせてよかったのかしら」
「いえ、先生。本校はカトリック、クリスチャンである事を入学の条件にはしておりませんし、それに日本でもすっかりハロウィンはお祭りとして定着しておりますから。生徒が自分たちで楽しみでやる分には、禁止までするのは可哀想かなという事で。ただ、そういうわけですから、わたくしたちシスターは参加するわけにはまいりませんの。親切にお誘いいただいているのに、申し訳ないのですが……」
「あ、いえ、わたしの方こそ、そうとは知らずに余計なお節介を……失礼しました」