「ロシア正教などの東方教会では彼女を聖なる『携香女』と呼んで、神聖視するそうです。西方教会ではマグダラのマリアはイエス様によって改心させられた元娼婦と解釈していて、神聖視まではいたしません。ですから学校行事には組み入れていませんが、私どもシスターだけは毎年、香油を捧げてささやかな祈りを捧げているのです」
「はあ、そうだったんですか。そう言えば今月は宗教行事を見かけませんでしたね」
「はい、そうですね。7月にも聖人の記念日はいくつかはありますが、一般に広まっている物はないですから」
 感心してチャペルを出たところですれ違った二人の生徒の指先に環は目ざとく気づいた。派手な両手の全ての指に派手な蛍光色のマニキュアが塗ってあったのだ。環は二人を呼び止め、相手の手をつかんで持ち上げて注意した。
「何ですか、これは?マニキュアは校則で禁止のはずですよ」
「でも先生、今日はマグダラのマリア様の……」
 相手に最後まで言わせず、環はぴしゃりとその言葉を遮った。
「ケイコウの字が違います。すぐに落しなさい」