後に雛菊が『龍太郎と一緒に生活していて、一番辛かった頃』と語る時代。

自分の向けるべき力のベクトルが定まらず、強く在りたいのに、そうなれない自分への失望、怒り。

そんな感情を燃焼させられなかった時期。

「おっらぁあぁぁっ!」

龍太郎は夜な夜な繁華街に繰り出しては、まさしく殺し合いじみた喧嘩に興じていた。

時には背中を刺されて帰ってきた事もある。

時には額を割られ、玄関先で昏倒して病院に担ぎ込まれた事もある。

今でこそ雛菊は屈託なく笑う少女であるが、この頃は何時でも塞ぎがちで、電話が鳴る度に、龍太郎の事でかけてきた警察や病院ではないかとビクビクしているような内向的な性格だった。