【己の欲をぶつける それ以外の…、 貴女への甘え方を 知らない…―。】 刹那は冷たい雨が降りしきるなか、薔薇園を眺めていた。 憐に薔薇園を見せてから不思議な気分にかられていた。 セピア色に染まる見覚えのある情景が刹那の脳裏をよぎる。 「見覚えが…ある……か…、」 刹那は寂しげな顔をして自分の右手を見つめた。 「……ふ、そろそろ 優夜がお茶を淹れてくれる時間だな」 刹那は濡れて、ぐっしょりになった前髪を掻き上げ、うしろ髪を靡かせて屋敷内に戻っていった。