「それだけなの? ホントに?」

ただでさえ打たれ弱いあたしには、尋問みたいなことは無理がある。

だからこれ以上、虚勢を張ってみせたりすることは困難だった。

それに、その目で見つめられたら、頭が混乱してどうにかなってしまいそう……。


あたしは小さく震える手を握った。


「っ──あ、あたし……先輩が好き」

「やっと、観念した」

進藤君は勝ち誇ったように、柔らかい笑顔を作る。


「あ、あの!」

「ん?」

「このこと、内緒にして! だ、だから……っ」

あたしは必死にお願いして、頭を深々と下げた。


先輩には彼女がいるのに……。
それが、先輩の弟にバレるだなんて。


進藤先輩やその彼女への罪悪感、進藤君に知られてしまった悔しさが一気にこみ上げてきて、気分が悪い。


そんな複雑な感情を抱えるあたしに対して、進藤君は黙ったまま。

あたしは彼の表情を見るのが怖くて、声が聞こえるまでずっと頭を垂れていた。


「──いいよ」

「え?」

いいよ?

そう聞こえた声に、咄嗟(とっさ)に頭を上げた。


「聞こえなかった? ──いいよって言ったんだよ」

え?
ホントに言ったの……?

彼に疑心暗鬼に捕らわれながらも、進藤君の冗談を言った後の顔には見えない真剣な顔に、真実味がわいてきた。


「その代わり、条件つきだよ。俺は兄さんのように優しくないからね」