その瞳で見つめて~恋心~【完】

「ゆっくりでいいよ。水嶋さんには後悔してほしくないから」

進藤君は微笑みながら、あたしの頭を撫でてくれると、胸の痛みがスッと消えてしまった。


進藤君の優しさに甘えてしまいそうになるけど、ぐっと堪える。

そうでもしなければ、何かに気づいてしまいそうだったから。


「じゃあ、そろそろ戻ろっか?」

進藤君は立ち上がって、屋上の扉へ歩く。


でも、あたしは自分の気持ちに戸惑っていて、彼から見れば呆然としていた。


「水嶋さん。ほら、行くよ?」

「あっ、うん!」

いつまでも座っているあたしに、進藤君は振り返った。

あたしは彼の声に我を取り戻して、急いでお弁当を片付けた。


ダメだよ……。
あたしは進藤先輩が好きなんだから。
進藤君だって、応援してくれてるんだから……。


進藤君がヤキモチを妬(や)いたあの日から、あたしはおかしい。


あたしは様々な進藤君を知ってから、彼のことを別の意味で意識し始めてしまっている。

つまり、進藤君を好きになるなんて、絶対にダメだ。


脳内と弁当箱を整理して立ち上がる。

すると、屋上のドアの奥から小さな靴音を聞いた気がして、とっさに見つめるけど異変はなかった。


「どうしたの?」

「さっき、靴の音が聞こえなかった?」

「え? 聞こえなかったと思うけど……」

「そっか……」

気のせい、だったのかな……?