その瞳で見つめて~恋心~【完】

「え? あっ、何?」

「いや。なんか落ち込んでるみたいだけど?」

「な、何もないよ」

「そう」

ごまかしたのに彼は追求せずに歩き出すので、仕方なく後を追う。


進藤君はいつになく素っ気ない気がして、まるで眼前にいる彼は別人のように思えてしまう。

ホントにどうしちゃったんだろう──と胸にできたわだかまりが気になって、彼に何があったのかを探ることにした。


「進藤君」

「ん?」

「なんか……、怒ってる?」

「え? そんなことないよ。普通、普通」

進藤君はニコッと小さく笑う。


「ホントに?」

「うん。──あ、ほら。着いたよ。水嶋さんの家」

「あ、うん。ありがとう」

「じゃあね」

進藤君は微笑むと、小さく手を振ってから背を向ける。


あ、おやすみなさいって言ったほうがいいのかな……?


そうは思ったのだけど恥ずかしかったから、姿が見えなくなった進藤君にホントに小さく手を振った。

だけど、消えるまでの進藤君の背中は淋(さみ)しげに見えて心配でならなかった。