その瞳で見つめて~恋心~【完】

進藤君は家を出てからと言うものの、ずっと黙っている。

何があったのか、どう声をかけたらいいのかがわからず、あたしは困惑するばかり。


「兄さんと楽しそうだったね」

まるであたしが困っている様子がわかったかのようなタイミングで声を出したかと思えば、その言葉だった。

けれども、その一言にはとげがある言い方で、胸につっかえを覚えた。


「俺の前ではあんな顔、しないくせに」

「え?」

進藤君が何やら言った気がしたのだけど、なぜだか彼の声はかき消されてしまう。

──かと思えば、いきなり進藤君に腕を引っ張られて、彼の胸に飛び込む形になった。

すると、かなりのスピードを出した車が走り去っていた。


「危なかったね。水嶋さん、いつもぼーっとして歩いてるの?」

「え? そ、そんなんじゃ」

「じゃあ、気をつけなきゃ。ね?」

「う、うん」

進藤君はあたしの答えに満足したのか、笑顔で肯くと離してくれた。

そして、何もなかったかのように歩き出す。


あ、あれ?
いつもなら、意地悪なことを言われるのに……。


「──水嶋さん?」

前を歩く進藤君はあたしが立ち止まっていることに気づいたのか、振り返った。