「やだ。離れない」

「んっ……!?」

言葉の通り、あたしの唇にキスをしかけてきた。

またもや、不意打ちのことに対応なんてできるはずもなく、すぐに解放されても「ぷはっ」と酸素を取り込む。


「ま、また……っ」

「ん? また、卑怯なキスって?」

進藤君は揶揄(やゆ)を帯びた目で、あたしを見る。


あたしが首を縦に振って肯定すると、彼は笑い出した。


「水嶋さんが俺を妬(や)かせるからだよ?」

「だからって……」

「ん? また、無理矢理されたい?」

「ご、ごめんなさい! もうしないから!」

必死に謝ると、進藤君はくすくすと笑う。


完ぺきに遊ばれていることはわかっているのに、どうして恨めないのが進藤君の長所なのかも知れない。


「はい。水嶋さんの家に着いたよ」

「ありがとう」

「うん。──また、よろしくね」

「うん。こちらこそ」

進藤君が柔らかな笑みを浮かべたので、こちらも顔がほころぶ。


「じゃあ。また、学校で」

「うん……」

実を言えば帰ってほしくない。

けれども、わがままは許されないから。


進藤君が微笑みながらあたしに手を振る中で、胸に迫るような思いをぐっと抑え込んだ。