「いいだろ? 俺にとっては、最初で最後のデートなんだからさ」

進藤先輩は自虐的な言葉を口にして、まるで『自分の姿が無様で滑稽(こっけい)だ』との思いを込めたような苦笑を浮かべた。

先輩の曇った表情を見て、罪悪感を抱いて顔を伏せた。


あたし、先輩にまで迷惑かけちゃった……。
進藤先輩は何も悪くないのに。


「言っとくけど、迷惑とか思ったことねーよ」

「え?」

彼はあたしの気持ちを汲(く)み取ったような救いのある言葉に、とっさに顔を上げた。


「むしろ、由奈に助けられたよ。俺は──」

その先を言うのかと思ったら、進藤先輩は口をつぐんだ。


「いや。明日、言うよ。今日はとりあえず帰れよ。な?」

「はい……」

進藤先輩へ生まれた罪の意識や、なんだかおあずけを食らったような複雑さに苛まれながらも、立ち上がる。

そして、廊下に出てから振り向き、部屋のドアを閉めようとする。

その際に彼を見ると、手をひらひらと振り、笑顔で見送った。


進藤君だったら、送ってくれたのにな……。


いつだって進藤君はあたしを家まで送ってくれ、あたしの家に到着したら笑って手を振る──。

そんな日常と化していたあの日々を思い浮かべながら、進藤先輩の部屋のドアを閉じたんだ。