「………………」

──『完ぺきすぎる、そんな兄貴が嫌いだった』。

──『俺はやめたんだ。我慢しないって』。


進藤君の言葉を思い出す度、彼の顔がゆがんでいく……。

沈着冷静、頭脳明晰、容姿端麗……天才的と言える全能な兄に抱いた嫌悪・憎悪感が、進藤君の性格をあんなに曲げてしまったんだ。


やっぱり、無理だよ……。
だって、あんな怖い進藤君を見たの、初めてだったんだもん。


彼への恐怖はあった。

けれども、あたしは進藤君の確かな優しさを知っている。


彼はあたしのことを好きで、でも想いは一方的なものだったから苦しいはず。

なのに、あたしの恋を応援してくれたり、笑顔で接してくれたんだ。


だから、進藤君にはもう、あたしのことで苦しまないでほしい。
進藤君に迷惑かけたくないよ。
だって、好きだから……。


「しばらく無理か?」

「はい……」

進藤先輩はこれ以上は無理だろうと踏んだらしく、深く追求はしてこなかった。

すると、彼は「んー」と唸って、何かを考えている顔になる。


「じゃあ。明日、デートしよっか」

「えっ?」

やけに眉の間に深いしわを寄せて考えていたので、その口から何が出てくるのかと息を飲んで待っていたのに、無駄に終わってしまった。