「何か、久しぶりに笑ってくれたね」

「え?」

「水嶋さん、元気なさそうだったし。兄さんとは上手く行ってる?」

「うん、順調だよ?」

「そっか」

進藤君はプリントに向き直った横顔を見つめる。


進藤君の真剣な顔だ。
カッコいいなぁ……。


「水嶋さん、いつまでいんの?」

「え?」

進藤君に指摘され、思わず見とれてしまっていたことに今さら気づく。


「俺、期待しちゃうよ?」

進藤君はプリントを裏返して立ち上がったと思えば、あたしに接近しながら見つめてくる。


「え、進藤君……」

意外な展開に鼓動が速くなり、頬が徐々に紅潮していくのがわかる。


「顔、赤いよ? 俺だったら、誘ってるって受け取るけど」

戸惑うあたしに、進藤君は全く視線を逸らさず、こちらに手を伸ばして左頬を触る。


「進藤く……、えっと」

「奪ってほしそうな顔してるね」

進藤君の手が唇まで落ち、そこに指が触れたかと思えばなぞられる。


「──ムカつく。この水嶋さんの唇を、兄さんが触ってるなんて」

進藤君は憎らしいと言いたげに、ひどく顔をゆがませる。


「知ってる? 俺、“兄貴”が大嫌いなんだよ」

「え……?」

進藤君が……?


進藤君の口から聞かされた言葉に、まさかと耳を疑う。

だって、進藤先輩のことを兄さんと呼んで、仲がよさそうにしている印象を受け取った。