「無理だよ……」

「何が無理なの?」

「だって、進藤君とあたしなんて似合うわけがないもん……。って、え?」

洗面所に入ってくるときには、誰もいなかったはず。

それなのに声がしたことに、不審に思って振り返ると、そこにはいるはずのない男子がいた。


「きゃあぁっ!? な、なんで、進藤君が女子……!」

「しっ。静かに」

彼の手で口をふさがれる。

その男子はまさかの進藤君で、もっとも聞かれたくない場面であって、ますます焦る。


というか、静かにと言われたって、ここは女子トイレ。

男子が入ってきたら、誰だって驚いて悲鳴を出すに決まっている。


「大丈夫。今、誰もいないでしょ?」

そ、そうだけど……っ!


口をふさがれているので、心中で肯(うなず)く。


「それに、何だって? 俺と水嶋さんなんて、似合うわけがない?」

うっ……、聞き逃されてなかった……。


やっぱり進藤君はあのぼやきを聞き逃してはいなくて、あたしに問いただす。


「別にいいんじゃない?」

え?
『別にいいんじゃない?』って、どういうこと……?


その意味を聞きたくて、進藤君の顔を見ようと見上げる。


「似合う、似合わないなんて、気にしなくていいんだよ。問題はお互いに好きかってことだと、俺は思うよ?」