「水嶋さん、おはよう」

「……っ、おはよう」

いつものように教室に入れば、進藤君があいさつしてくる。

でも、何かが違うんだ。


それでも、なんだか実感がわかない。
だって……。


「素っ気ないなぁ。せっかく、俺が彼氏なのに」

「ええっ!? 水嶋さんって、進藤の彼女なの!?」

話が聞こえていたみたいで、クラスのみんながあたしたちに群がる。


「まあね。──あ、水嶋さんに質問はなしね。照れちゃうから。ね?」

あたしに向かって、進藤君は優しくほほえむ。


「にしても、意外。水嶋さんが進藤が好きだなんて」

「違うよ。俺が水嶋さんに告ったの」

進藤君はさすがという感じに、笑顔で平気に言ってのける。


「あ、あの。あたし、お手洗い……」

自分の存在が浮いてる気がして、あたしは逃げるように後にした。


「──はぁ……」

“進藤君の彼女”。

クラスのみんはは驚いていたけど、一番驚いているのはあたし自身だ。


それにしても、進藤君と付き合うなんて無理だよ。
男の子と付き合ったことがないんだもん……。


それにクラスで目立たない地味なあたしが、話題性のある進藤君となんて、つり合うわけがない。


洗面台に手をついてうつむいている顔を上げて、鏡に自分が映った瞬間、ため息混じりにぼやいた。