―ガチャ…

自分の部屋のドアを開けた。


真っ暗な空間の中に、青白い光を放つ長方形の四角。


静寂の中にあってそれだけが、ジーッと機械音を漏らし、

ブクブクと水泡を昇らせる。


泳ぐのは、熱帯魚。


昔、“魚が好きだ”と言ったら誕生日に買ってもらった水槽と熱帯魚。


母親は、あたしがペットショップで興味を示したことがよほど嬉しかったのだろう。


渋い顔を見せていた父親を、必死で説得してくれていた。


その時初めて、母親があたしを気にかけてくれているのだと知った。


優しい人だし嫌いではないけど、

たまに押し付けたような優しさに息苦しくなるだけのこと。



喜んでいざ自分の部屋に水槽を置き、綺麗な熱帯魚たちを泳がせて気付いた。


可哀想だ、と。


こんな四角いだけの世界で一生を暮すなんて、そんなの自由じゃない。


あたしの好きな魚の世界とは、まるで違う。


だけど、逃がしては母親の気持ちを踏みにじる気がして、どうすることも出来なかった。



そのうちに芽生えた感情は、“ごめんね”ってもの。


熱帯魚たちは、その閉塞感に気付かずに生きてるんだ。


可哀想な熱帯魚。


可哀想なあたし。


“一緒に頑張ろうね”なんて、閉じ込めてるあたしが言える台詞でもないんだけど。


水槽の中にも入れない、

クラスメイトの中にも入れないあたし。


みんなのように何も考えず、何も知らずに生きれば、きっと幸せなんだろうな、って。



「…ごめんね…」


逃がしてあげることも出来ない熱帯魚たちに、

夜ごとそう呟くのが日課になっていた。