どうしてこんなところにこの人がいるのかとか、一体私は何のためにここに連れてこられたのか、とか色んな疑問が頭の中で渦巻いてたけど、とりあえず、挨拶だけは自然に出来た。
「すみません、この瀬川に呼ばれてたんですが、やっぱり会議があるそうなので、私はこのまま会社に戻ります。お話は、担当の青山がきっちり伺いますから」
きゅうりが真面目な顔で、訳わかんないことをすらすら話している。
会議?私が何だって?ってか、だから一体なぜこのお嬢さんはここにいるの?
「青山、長谷寺様が保険のご要望があるそうだから、しっかりお相手して差し上げて」
長谷寺様ときゅうりの顔を交互にみていた青山さんは、一瞬にやりと笑って、大きく頷いた。
「はい、お任せください」
とたんに膨れ面になったお嬢さんが、きゅうりの背広の端を掴んだ。
「えー!?折角ここまできたのに。それに、私は楠本さんに担当して貰いたいんだってば。新しい保険は楠本さんが担当してくれたらいいと思って・・」
柔らかく微笑んで、自分の背広から彼女の手を離したきゅうりが言った。
「何度もいいますが、担当は替えられないんです。元々私の担当地区ではありませんし、越権行為は禁止されています。それでは、後のことは青山とお話下さい」
失礼します、と彼女に頭をさげ、頼んだぞ、と青山さんに声をかけたきゅうりはさっさと身を翻して行ってしまう。
・・・・・・・えーっと??
物事の進行についていけずにそのままきゅうりの背中を目で追っていた私に、かなり距離を進んだきゅうりが振り返って、手でおいでおいでをした。



