トマトときゅうり



 見上げると、きゅうりがいた。

 きゅうりは喜多川さんに片手を上げると私を引っ張って歩き出す。

「へ?ええ?」

 何が何だ!?私はおたおたと引っ張られながらついていく。ちょっとちょっと~?

 パニくる私を無視して腕を掴み、きゅうりは人ごみの中をぐいぐい進んでいく。途中で他の事務所の営業達に、挨拶や今日の壇上表彰のお祝いを受けていた。

「楠本さん、お疲れ様です」

「おう、稲葉。お疲れさん」

 人波の中を突き進んでいたきゅうりがいきなり立ち止まって、私は見事にその背中に顔を突っ込んだ。

 ぶっ・・・。痛い~・・・。空いてる片手で鼻を押さえながら顔を上げて、固まった。

 つい、あ、と小声で零してしまった。・・・・中央の稲葉だ、この人。さっき散々噂を聞いた――――――――

 きゅうりとそう身長も変わらない大きな男性がキラキラとオーラを放ちながら前に立って笑っていた。

 噂の美男子。本物見ちゃった・・・。

 ・・・確か~に、垂れ目だなあ~。洋風・・・というか、可愛い顔だ。マジマジと見詰める。

 ふと私に気付いた「中央の稲葉」がにっこりと微笑んだ。

「お疲れ様です」

「あっ・・・お、お疲れ、様で、す・・・」