「おや、瀬川さん来てたんだ、お手伝いで借り出された?」
喜多川さんというこの年配の営業マンは定年退職後、永年営業として、会社に復帰した組の一人。30年以上もこの世界にいて、酸いも甘いもかみ分けた、本気のベテランさんだ。
なんせ余裕がある。
言葉一つも優しい上に過去の保険作りの遍歴まで全部熟知している生き字引で、私たち事務組は「キタじい」と尊敬と愛情をこめて呼んでいる。
「喜多川さん、お疲れ様です」
駆け寄って、挨拶する。キタじいはにこにこ笑って、タバコをアッシュトレイでもみ消した。
「はい、今日はお手伝いです」
「ご苦労さん。今から事務所かい?」
「いえ、部長がもう上がってもいいと仰ってくださったので、帰ります」
一緒に並んでその場を歩きながら、説明した。
「大会の後は、事務所で大体ご飯を食べにいくんだけど・・・。一緒に来たらいいじゃないか」
キタじいの申し出は有難いけど、男性ばっかと一緒にご飯の何が楽しい。
向こうも気を遣うだろうし・・・と思って、首をふる。
「いえ、一人でパッと食べちゃいます。折角の降って湧いた自由時間なんで――――」
言いかけたところで、後ろから割り込んできた人に腕をとられた。
「すみません、喜多川さん。ちょっと彼女借りますね」
「・・・は?」



