トマトときゅうり



 きゅうりと彼女が机越しに向かい合って座っていた。ちらりと視線を私にむけて、きゅうりがお礼を言う。

「ありがとう、喉が渇いてたんだ」

「・・・いえ」

 あれ、何だか彼女膨れてない?

 ちょっと頬を膨らまして、きゅうりをじっとみつめている。それはそれで可愛いなあ~と思ったけど。

 気になったが、それ以上ここにいる理由もないので、頭を下げて退室した。

 ドアを閉める前に、少し、声が漏れ聞こえた。

「いいでしょう?行こうよ、楠本さん」

 ・・・パタン。

 ドアがしまって、もう聞こえない。

 ・・・・どこに行こうって誘ってんだろう。やっぱりあの子、保険とは関係なく来たんだな。自分でもいってたけど、きゅうりに会うために。

 うー・・・・駄目駄目、気にしないこと!

 気合を入れなおしても、その後の仕事の効率はぐんと落ち、終わりが見えそうになかった。

 少しして長谷寺様のお嬢さんも帰っていったけど、その後きゅうりも出て行ったし、心のもやもやは消えないまま。

 バイトの就業時間の5時前、仲間さんが手伝おうかと声をかけてくれたけど、ここで甘えたら何にもならないと丁重に断る。

「私、サービス残業で片付けますから、どうぞ先に上がってくださいね」

「駄目よ、時給制なんだからサービス残業なんて言葉はありません。そこまであなたがしなくても」