一応(って言ったら可哀想だけど)、彼がこのお嬢さんの担当なはず。
そしたら手を大きく横にふって笑った。
「いいです、あの人には用がないんでー」
・・・・そうですか。
もう一度お辞儀をして自席に戻ろうとした時、ドアがあいて、きゅうりが飛び込んできた。
「あ、楠本さん。お疲れ様で――――」
「あ~!楠本さーん!来ちゃったー!」
私の声は、1オクターブは上がった彼女の声で遮られた。
驚いてそのまま口を噤む。・・・わお、びっくりした。
「お待たせしました、長谷寺さん」
きゅうりが笑顔で近づいてくる。
・・・・これが、噂の営業スマイルか、と思った。明るく、誠実そう、と形容されるような。目元が凄く優しくなってる。
そういえば、ランチに行った時の青山さんは、いかに営業中のきゅうりが凄かったかばかり話してたな。
「本当に凄いよ、押し付けがましくないのに、こちらの主張はちゃんとしてるんだ。それに、一品の営業スマイル。あの笑顔だったら女性客は幼稚園児からおばあちゃんまでイチコロじゃないかなー」って。
コロっといっちゃったわけなのね、このお嬢様は。
自分のことは棚にあげて、意地悪く心の中で呟く。
胸の奥にざわつくものを感じながら、来客ブースのドアをそっと閉めた。



