トマトときゅうり



「お客様がいらしてます。今どちらですか?」

『客?』

「はい、長谷寺様とおっしゃる女性の方です」

 また、間があいた。

『・・・・ああ、判った。もうすぐ帰社できるから、悪いけど、待っていただいて』

「はい。何か用意しとく書類などありますか?」

『いや、特にはない』

「はい、ではお茶をお出ししておきますね」

『うん宜しく』

 ホッとして電話を切る。何も不自然なことはなかったはずよね。ビジネスライクに淡々と話せてたわよね。よしよし、顔も赤くなってない。

 無事に電話をきれたことに気を良くして、来客ブースに戻り、「楠本は外出中ですが、すぐ戻るとのことです」と告げる。

 人形みたいな彼女はにっこり笑った。

「ありがとう」

「お茶お持ちしますので、どうぞかけてお待ち下さい」

 給湯室で準備を始める。

それにしても・・・・ああ・・・いい声だった。

 避けまくってたせいで、ここ何日かマトモにきゅうりの声を聞いてなかった。恋心に気付いたからかな?あんなに前からゾクっとしたっけ?