トマトときゅうり



 ・・・・ここは。

 雲や風、色とりどりの全てのものが消えて、真っ白な世界にいた。

 上も下も判らない。


 私はただ、立っていた。もう浮いてはいなかった。裸足の足を見下ろす。

 ・・・どこだろう。私はここで、何を―――――――――


 ぼんやりと周囲を見渡すと、少し離れた場所に男性が立っているのに気がついた。


 短い黒髪。濃紺のスーツ。長い足と大きな手。向こうを向いて真っ直ぐに立っている。


 きゅうりだ。

 この背中を、私は知っている。


 ふ、と彼が振り向いた。

 そして切れ長の瞳が私を捉えた。

 じっと見ている。無表情で。

 何だろう。

 何を考えているんだろう。

 どうしていつもみたいな、やんちゃな瞳じゃないんだろう。

 あの、あけっぴろげな笑顔はどこに消えたんだろう。

 いつも上がっている魅力的な口元も、厳しく下げたままで。