そう思ったら、何も言えなかった。

 駄々をこねて彼を困らせ、全身であなたが欲しいのに、と叫ぶ彼女が痛々しくて見てられない。

 胸のところがぎゅうぎゅうと痛んで呼吸するのが難しかった。

 目の前で、女の子が悲しんでいて。

 それでも私は違いますとは言えなくて。

 楠本さんとはお付き合いしてません、とは、言えなくて。

 正直に全部の気持ちをさらけだすお嬢さんみたいには、私はなれない。

 私はこんな風には言えない。

 私はこんな風には出来ない。

 ・・・ああ、どうしてこんな。

 せめて、私も。


 彼女の、10分の1でもいいから、素直になれたら―――――――