契約によって支給された成果給料は全額返金が求められるし、早期に解約の場合は、そもそも契約それ自体に違法性がなかったかの査定が入る。1年間の契約取扱者のブラックリストに青山さんの名前が載ってしまったり、支社が出す新契約の施策には対象外扱いになるなど、営業の士気は一気に下がる結果となる。

 それで、営業が続けられなくなる人もいるくらいだ。

 ちゃんと信頼を得て契約を頂けたと嬉しそうに笑っていた青山さんを思い出す。

 娘のいうことを父親がどれだけ信じるかは、判らない。けれども、たかが保険の担当者である青山さんへの信頼と娘への信頼とはまた別物だろう。

 こんな・・・こんな個人的な事で全てを巻き込んで暴れるなんて、この人はどうしてこんなことが言えるんだろう。

 目の前で怒りに震えている、小さくて細い彼女を見つめる。


 ―――――――――――でも。



 涙を溜めた大きな茶色の瞳で、真っ直ぐにきゅうりを見つめている。

 唇から出てくる厳しい罵り言葉とは違って、その姿はすぐにでも壊れてしまいそうに見えた。


 ・・・・好きなんだ。

 この人も。

 きゅうりが、どうしようもなく。

 そして傷ついて、震えている。


 ・・・私と、一緒だ。